成長は組(四年生時)です。一部滅茶苦茶柄の悪くなっている子もいますので嫌いな方はブラウザバックでお戻りください。
庄左ヱ門と団蔵が喧嘩をした。
同室者の苦労
1.加藤村の若旦那の同室者の場合。
団蔵と庄左ヱ門は普段は仲がいいくせに年に数回、大きな喧嘩をやらかす。原因は大体がくだらない例えば夕飯の味噌汁の具は何が一番といった感じのささいなものなのだが、一度ぶつかり合うと普段ぶつかり合わない分盛大な喧嘩になる。
もともと団蔵は大雑把で細かいことは気にしないが短気だし、庄左ヱ門も冷静なくせしてあれでなかなか融通が聞かないところがあるので、一度遣り合ったらどっちも歯止めが利かなくなるのだろう。
普段なら団蔵が持ち合わせの大雑把さでまぁいいやと折れるか、庄左ヱ門が冷静に団蔵をなだめるかして収まるところがどちらも頑なに譲らなくなってしまう。
それは一年の頃からいっそ清清しいまでに変わらない。そしてこうなると一番困るのは周りの人間と言うことも。
何せ庄左ヱ門は一年の頃から出来のよくないこの組をまとめる学級委員だし、片や団蔵は気性から庄左ヱ門の補佐にまわっている上、組の財布を預かる地獄の会計委員だ。
たとえるならこの二人のは組における関係は脳と心臓みたいなものなのだ。組を動かすための頭と、その動きを助ける心臓とが仲たがいをして手足が上手く動けるはずもない。
一年の頃から団結力を誇る僕らは組だがこの二人に睨み合われてしまっては、たちまち組織として瓦解する。
ただでさえ一癖も二癖もある連中ばかり集まったうちの組をまとめきれる奴なんて、この二人以外ありえない。組で動く際の頭と心臓はこの二人以外考えられないと四年間で組の誰もが認めているのだ。
そのため二人の喧嘩はは組の一大事。
出来る限り未然に防ぎ、始まってしまった場合は速やかに終わるように仕向けなければいけない。
何しろ二人とも思いっきりやり合わせても、お互いが納得行くまで決して喧嘩を終わらせようとしないのだ。
お互い認め合っているだけに、無難なところで手を打つということが出来ないらしい。全く難儀な奴らだ。
とはいえ大きくなれば大きくなるほど必然的に長期戦に、組の方の運営にもずるずると影響され続けてしまう。
だから結局、いつも仲裁約が必要になる。そして必然的にその仲裁役が廻ってくるのは彼らの同室者である僕と伊助だ。
全くもって損な役割だと我ながら思うのだが、困ったことに僕も伊助もそういうことを放っておけない性質だ。もはや運命。そういう星回りなんだろう。遠慮したいことこの上ないが、代わってくれる人間はいないのだ。諦めるしかない。
こうして諦めきった僕らは今回も入ってきた知らせに忍たま長屋の廊下を駆け出した。
2.墨屋の若旦那の同室者の場合。
喜三太からの知らせを受けて、虎若と現場(忍玉長屋の厠前)に向かうと庄左ヱ門と団蔵はまさに一触即発と言った状態にまでなっていた。
「ふざっけんなよこの暴君!」
「言ってくれるね。駄馬が」
・・・ちょっと遅かったかな。僕は心の中で舌打ちをする。
庄左ヱ門は本気で怒るときは逆に笑う。
それはいつも冷静なこいつらしい癖で、本気で怒る時ほど静かに静かに怒る。それは逆に頭が冴えてくるためらしい。
そして、そういうときの庄左ヱ門ほど恐ろしいものはない。
何せこうなったときのこいつは自制やら容赦と言うものを故意に捨てる。そしてごくごく冷静には組にしておくにはもったいないといわれる優秀な頭で相手を全力で潰しにかかるのだ。
それが例え、日々をともに過ごしてきた友人だろうと、背中を任せる相棒であろうと関係なく、完膚なきまでに。
その上なまじ冷静な分、しくじるようなこともない。
これが団蔵のようにわめいたりなんなりしているときならまだ手の施しようがあるのだが、今のようにごくごく静かな口調で、けれど絶対零度の冷たさの声音でその辺の刀より鋭さを持つえぐい台詞を言ってくるあたりすでにかなりの重症だ。
手の付けようがない。
頭だけでなく体術の方も上等の基本的に万能な男なのだ。下手に手を出してこちらまで怒りを買うのは厄介極まりない。
だが、だからといって団蔵の方に手を付けられるかといえば決してそうではない。
団蔵は団蔵で庄左ヱ門とは対照的に声を荒げ今にも掴みかからんばかりに怒り狂っている。
たとえるなら炎みたいな怒り方だ。それも相手の言動や仕草一つ一つを薪代わりにして燃える炎だ。勢いがあるのでそう簡単には鎮火できそうにも無い。それどころか下手に手なんか出したらこっちの方が痛い目を見る。
短気な上、体格もよく体術というか喧嘩に関しては(性格上)かなりの場数を踏んでいる分、庄左ヱ門以上を誇る男なのだから。
純粋な力勝負に持ち込まれたら虎若、金吾ならともかく僕では相手にならない。
同じ組だからといって手加減するような冷静さも残ってないだろう。
今は庄左ヱ門自ら油を注ぎまくってくれてるようだから尚更に。
それこそ僕らが下手な刺激を与えようものなら油どころか遠慮なく火薬を壷ごと投げてくれるに違いない。
とはいえ、こんなところ・・・というか忍たま長屋の厠前でこの二人に本気で取っ組み合いの喧嘩なんてさせるわけにも行かない。
ただの殴り合いで済むならいいが、今のこいつら・・・特に庄左ヱ門が手段を選ぶとは思えないだけに周りの被害が小さく済むとは思えない、というか厠の一つや二つくらいはふっ飛ばしそうな勢いの険悪さだ。
実際こいつらは、何回も周囲の建物を壊した前科持ちでもある。
厠が破壊されてしまっては色々不便だし、何より下級生が二人の雰囲気に怯えながらも情けなくも生理的な事情との葛藤に苦情が来るのは僕らの方だ。
そうなる前に何とかしたほうが良いだろう。
事実、柱の影から怯えながらもこそこそと伺っている子たちが何人か集まり始め、ちらちらと僕らに何とかしてくれと視線を送っているだけに。
可哀想に、涙目のへっぴり腰で下半身を押さえつつもぞもぞしてるよ。そりゃ、あんな険悪な奴らに文句を言いになんかいけないよな。言ったそばから二度と口を利けなくされそうな感じだし。
僕は大きくため息を吐いた。
全く、ため息を吐くのは幸せが逃げるから良くないって話だと言うのに。
逃げた分の幸せは後でこいつらに捕まえにいかせようと思いながら僕は虎若に目配せをした。
―――――どう転んでも面倒だしとりあえずはこいつらを此処からどかそう。
音も無くそう合図すると、虎若も頷いたので僕は二人に声をかけた。
「庄左ヱ門!団蔵!こんなところで何やってるのさ」
「何?伊助。邪魔しないで欲しいんだけど」
「んだよ伊助!邪魔すんな!!」
喧嘩してる癖になんで息ぴったりなんだろうか。こいつらは。
腐っても相棒と言うことなんだろうか。いっそ拍手を送りたい。
しかしそれでも張り詰めた空気に隙が出来た。
そして虎若は僕が作った隙を逃すはずも無く、一気に団蔵を担ぎ上げ一目散にその場を離れた。
流石一年の頃から筋トレにはげんでいた男。
人一人くらいはを文字通りどかすのはわけが無いらしい。団蔵はうちの組の中でも2、3番目くらいには体格がいい方だというのに。
さて、とりあえずこれで一応は厠の破壊は未然に防いだわけだけど。
「伊助。邪魔しないで欲しいって言ったと思うんだけど?」
「うん、まぁとりあえず厠前で話すのも何だしまずは部屋にもどらない?」
「いいよ?いろいろゆっくりはなそうか」
こいつを落ち着かせるのはまた骨が折れそうだな、と思うと僕はちょっと本気で逃げ出したくなった。
庄団前提の虎若と伊助の話。
・・・庄団前提なんですよ。コレでも。喧嘩しかしてないけど。喧嘩するほど仲が良いと言うヤツですよ。
虎若と伊助は将来的に庄団コンビに振り回されていると思うよ。
戻る
|