「レディ・・・」
田島の合図で机の上に肘をつき手を組む。
自然と腕に力のこもったオレに目の前の馬鹿(浜田)は相変わらずへらへらと笑う。
この野郎、余裕面しやがってスゲームカつく。ぜってー負けねー。
「・・・ゴッ!!」
田島が合図したのと同時、オレは右手に力をこめた。
青春スライダー。
と、気合を入れたは良いものの、浜田の腕は最初の位置からぴくりとも動かない。
畜生、こっちは最初っから全力で勝負をかけてんだぞ。
余裕綽々って、顔してんじゃねー。オレは更に歯を食いしばって浜田を睨みつける。
だが悲しいかな、純粋な力勝負で身長15センチ差、ウェイト差15キロはでかい。
徐々に徐々にオレの右手は机との距離を縮めていく。
・・・手段を問わなきゃぜってー負けねーのに。
「い、泉君、も浜ちゃんも頑張れ」
ぼそり、と三橋の弱弱しい応援の声が脇から聞こえる。
どっちを応援すれば良いのか迷った挙句、結局どっちも応援することにしたんだな。
こういうとこ、なんだかんだいっていい奴だよな。うん。
それにひきかえ田島は「浜田つぇ〜。超余裕〜」なんて好き勝手言いやがって。ちったぁ三橋を見習え。っつーか、公平に見てろ。審判だろ。
確かに勝負見えてきてるけどよ!
が、俺の手が机まであと数センチ、となったところで状況は一変した。
「あ・・・」
「ん?どうしたー?三橋」
「浜ちゃん、首、虫に刺さ・・・・」
「うぉわぁぁぁ!!」
三橋の何気ない一言に慌てた浜田が、思わず手を離して首の辺りを押さえたからだ。
あー、もうこの馬鹿。何思いっきりリアクションとってんだよ。ごまかせば良いのに自分で難易度上げやがって。これじゃあ、なんかありましたって自分で白状してるようなもんだろ。本っっっ当馬鹿。
「なんでもない、なんでもない」を繰り返すほどうそ臭くなってる上他のやつの目まで引いてるって気付けよ。
ったく。しょうがねえなぁ。
「浜田」
「な、何?泉」
「手ぇ離したよな。反則だろ?オレの勝ち。ジュース奢って。コーヒー牛乳」
「え、う、ん?」
「んじゃ、購買までひとっ走りよろしく。急いでな、昼休み後7分」
そうしてぽんっと肩を叩いてやると、漸くオレが逃げ道を作ってやったことに気付き、浜田は刻々と頷いて購買へとダッシュした。
三橋と田島はわけがわからずポカーンと間抜け面でそれを見送る。
それを見ながらオレはこっそり、笑う。
あいつをからかっていいのも、首の跡の意味に気付くのもオレだけでいい。
少なくとも先に絵を描いていた時点では九組健全だったのに、まさかのイズハマ落ちになったのは私の中の泉さんが「オレが浜田に負けるかよ」と当然のように抵抗したためだと思われます。さりげなく、独占欲も丸出しです。
わー、超ゴーマン。
でも多分、しばらくたってから田島が「浜田の首ンとこつけたの泉?」とか気付いて浜田に聞いちゃうと思うよ。
んで慌てる浜ちゃんを尻目に「そうだけど何?」とか開き直る気がするよ、うちの泉さん。独占よく強いけど浜だの困った顔はそれはそれで好きそうだもん(酷)
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