これは、少々趣味の悪くて、誰も救われない後味の悪い話さ。
寓話
昔々、忍術学園という忍者の学校に11人の元気な男の子達がいたんだ。
とても仲の良い男の子達でね、みんな成績はちょっとよろしくなかったのだけれど、性根の素直な年相応のよい子達だったよ。
それにお互いを本当に信頼しあって、上級生でも解決できなかったような事件でも力をあわせながら解決していたそうさ。
まあ、それ以上に色々な騒動を引き起こしたり巻き込まれたりしていたみたいだがね。だからこそ11人の男の子たちの結束は固かったし、誰かが困ることがあったら自然と手を差し伸べる仲間という奴だったそうさ。彼らを知る誰の目から見てもね。
だけどある日のことだ。そのうちの馬借の息子に家からの使いがやってきたのさ。
何でも、その子の家の親父さんが倒れてしまったらしい。
知らせを聞くなり馬借の子は慌てて家へ戻ったよ。まあ、親のことを心配しない子供なんてめったにいやしないからね。当然さ。
幸い親父さんは腰を痛めただけで命に別状はなかったそうだよ。
でも結構いい年だったからね。これ以上馬借の仕事を続けるのに腰を痛めたままじゃ辛くなってしまった。
だから男の子は学園を辞めて家を継ぐことになったのさ。まだ幼かったけれど一人息子だったし、それを支える若衆も周りにいた。
何より今と違って子供は家業を継ぐのが普通だった。その上遅い子供で他の兄弟もいなかったからね。男の子は忍者になりたいと思っていたけれど馬借の仕事も大好きだったから、遅かれ早かれそういう道を選ぶことになってたろうと忍者になることを諦めたのさ。
当然、仲間達は彼がいなくなることを寂しがったけどね。
でも割合学園に近い家の子だったし、忍術学園の届け物は大抵その子の家で行っていたからね。
ちょくちょく会えるさとみんなは快く送り出したんだ。
うん、そうだね。彼らはちょっとくらい会える日が減っただけでずっと仲間でいられると信じてたのさ。何の疑いもなく、ね。
え?それならめでたしめでたしじゃないかって?
うーん、そこで終われるなら良かったんだがねぇ。人生はそうそう上手くはいかないものなのさ。 残念ながらね。
それから3ヶ月くらい経った頃だったかなぁ、男の子がぱったりと来なくなってしまったのさ。
それまではみんなの家族からの手紙やら、上級生への届け物やら、学園の備品やら何かと学園
によっていたにも関わらずにね。
一体どうしたんだろうと彼らは心配したよ。
けれど男の子はとんと来る気配がなかった。
しばらくすると男の子の住んでいる村が戦に巻き込まれていると言う知らせまで入ってきた。
だから彼らは急いで男の子の村に行ってみたのさ。
以前にも似たようなことがあったからね。 彼が困っているなら、助けなきゃと彼らは男の子の村へ急いだのさ。大事な仲間だからね。
未だ自分たちに助けを求めにこない彼は、率先して村のために駆けずり回っていてこちらへこられないのかもしれない。もしかしたら、もう既に前に戦ったあの堀で篭城戦にでもなっているかもしれない。怪我とかしていなければ良いけどと、心配しながら彼らは向かったのさ。
その先に何が待っているとも知らずにね。 え?いったい何が待っていたのかって?
いやいや、敵軍の兵士やら忍者やらじゃあないさ。
だからと言って獰猛な動物でも恐ろしい化け物の類でもない。
というより、彼らは会えなかったんだ。何者にも。
そう、勘がいい人なんかはもう気づいているだろうけど、つまりね。
男 の 子 の 村 は と っ く に 焼 け 野 原 に な っ て い た の さ 。
男の子の村はね、彼らがつく頃にはとっくに家も、厩も、村を守るための堀さえもすっかり灰になっていたんだ。村の人たちも切り殺されたり、矢が刺さっていたり、焼け死んでいたりとほとんど皆殺しさ。それはそれはひどい光景だったそうだよ。
その壮絶さには何人もが思わず目をそむけたし、悲鳴を上げた子もいた、泣き出してしまう子や嘔吐してしまう子もいたよ。けれどね、男の子は途中までとはいえ忍びの訓練をしていた子だし、彼らの仲間には小さい頃戦にあっても生き延びていた子もいた。だから生きているかも知れないじゃないか、いやきっと生きているさと、彼らは男の子の姿を探したよ。
どうか、この死体の山に男の子の姿がないことをと祈りながらね。
首が半分しかつながっていない男や、矢が幾本も刺さっている女の人、虚ろな目をした下半身のない子供や、全裸で膾のようにされていた女の人の死体を越え、必死になって男の子の名を呼んだのさ。
そうして幾刻か経った頃、村の外れの方で死にそうな赤ん坊の声が聞こえたのでそのあたりを探していた赤毛の男の子がそちらへ行ってみたよ。男の子のことは心配だったけれど、もしかしたら生き残った赤ん坊がどこかにとりのこされているのかもしれない。これは放っておけな
いなと思ったのさ。飛び切り優しい子だったからね。
そうして彼は声の聞こえる茂みの方へと行ってみて悲鳴を上げた。
彼らは何事かと急いで駆けつけたよ。 そして発見したんだ。衰弱している赤ん坊と、尻餅をついてなにやら怯えている赤毛の男の子を。そしてずっと探していた男の子が赤ん坊を両手でしっかり守るように抱いている姿をね。
彼らは仰天しながらも、喜んで茂みを掻き分け駆け寄ったよ。彼のことだからきっと近所の子か誰かを見捨てきれずに助けようと一緒に茂みに隠れていたんだろうと思ってね。
そして赤毛の子と彼の名を呼ぼうとして息を詰まらせた。
赤毛の子が悲鳴を上げた理由を悟ったのさ。
それもそのはず。
だって男の子は顔の左半分は焼けて、巻いていた布は解けかけてうつろな目だけが覗き生気なんてまるでなくなっていたし、右足には矢が二本も刺さっていた。左腕なんか赤ん坊を抱いたまま火傷が膿んで腐り始めていた。
そうしてまるで壊れたように・・・否、きっと壊れてしまったんだろうね。
唯唯赤ん坊に「大丈夫・・・乱太郎も・・・きり丸・・・しんべヱも・・・きっと来てくれるから」と呟いていたのさ。
繰り返し繰り返し、大丈夫、きっと来てくれるからと彼らの名を呼び続けていたんだ。
漸くたどり着いた彼らに気づけなくなっていても、壊れてしまっても、彼は仲間を信じる心だけは壊れることなく残っていたんだ。
見ているこっちの方が痛いくらいにね。 だから心配するなと赤ん坊に言い聞かせていたんだよ。
それはとてもとても悲しい光景さ。ある子は呆然と立ち尽くし、またある子はその場に膝を折った。痛ましさに目をそむけるそむける子もいたし、空を仰ぐ子もいた。「畜生っ」と行き場のない憤りを口にする子もいた。
男の子に近づき、彼の名を呼びながら反応すら出来ない彼を揺さぶる子や、涙目になりながらそれをとめる子も拳に爪を立て唇をかみ締めてうつむく子も、隣の子にすがりつく子もそれを受け止める子もいたよ。そして、彼の手を静かに握り
「来たよ。団蔵」 静かに遅くなってごめんねと謝る子もいた。そのどれもに男の子はもう反応を示すことはなかったけれど。
だけどね、怪我を手当てしようとする子だけはね、誰もいなかったよ。
出来なかったのさ。 だって誰の目から見ても男の子はもう助からないことは皆分かってしまっていたのだからね。
これから信頼する校医に見せたとしても、もう直に男の子が死んでしまうと皆分かっていた。
男の子の傍で彼を看取ってあげること。
それだけが、自分たちが彼に出来ることで、それだけしか自分たちは彼にしてあげられないことを彼らは気づいていたのさ。
だから彼らは男の子の傍にいたよ。 最期の最後まで静かに男の子の傍にいて、彼が息を引きるのを見ていたよ。
男の子は結局最後まで彼らが着いたことに気づかなかったけれど、彼らは男の子の最期を瞼に焼き付けたよ。
そうして彼を看取って漸く泣き出したのさ。
ごめんね、ごめんねと。 間に合わなくてごめん、助けられなくてごめんと。
声を上げて、むせび泣いたのさ。 それが彼らが11人の仲間だった最後の記憶。
だからね、これがこのお話の結末さ。 この後彼らが男の子のこと忘れていこうがいまいが、敵討ちをしようがしまいがそれはまた別の話。
別の話なのさ
こんにちわ。好きなキャラほどいじめたいプチサドな砂月です。
7人くらいに本気で土下座しなきゃいけない気分でいっぱいです。(中途にリアルな数字)
忍者じゃなくたってこの時代に生きて行くのは大変だろうよと言う話。
その後については蛇足になるのでご想像にお任せします。
戻る