穴を掘る。
ざくりざくりと穴を掘る。
深い、深い穴を掘る。
一つを終えたら、また一つ。
いくつもいくつも穴を掘る。
そうすれば。
そうすれば。












本日、虚ろなり












今日も僕は穴を掘る。
深い深い穴を掘る。
何個目の穴だったっけ。忘れてしまった。でも、結構な数にはなっているはずだ。
全身汗だく、服は泥だらけになっているから。
心なしか少々腕もだるい。ちょっと休憩しよう、そう思って汗をぬぐいその場に座り込む。
暑い。 空が急に翳った。





「何してるんだ?」


上から三木が覗いていた。


「見てのとおり穴を掘っているのだけど」
「見ればわかるよ。問題はそこじゃなくて何でこのクソ暑いのにわざわざ穴掘りなんかしてるのかをきいているんだよ」
そういって三木は呆れたようにため息をつく。
僕は三木の一言で思考を引き戻す。
何で、だっけ?僕が穴を掘っていたのは。
ただ何となくイライラしていたのは覚えているのだけれど。
イライラ、むしゃくしゃして・・・
「何でだっけ?」
「僕が知るわけないだろう」
うん、それもそうだ。我ながら的外れな質問をしてしまったな何て考えていると三木はさらに疲れたようにため息を吐いた。
「・・・とりあえずそこから出てきたらどうだ?」
そういうと、三木は不機嫌な表情をしながら僕に手を差し出した。
金糸の髪が日に透けてキラキラと輝く。
手を貸すから上がって来いってことかな。こういうところで三木は面倒見がいい。何だかんだいっても優しいんだよね。普段が普段だからわかり辛いけど。
そして僕は差し伸べられた三木の手に触れて、思い出す。




・・・ああ、そうか。
だから僕は・・・・てたんだっけ。




「・・・まったく、何でやたらとお前は穴を掘りたがるんだよ」
「知りたい?」




僕は伸ばされた君の手を掴んで、僕の元に引っ張った。
当然、予想外の力で僕に引っ張られた三木はなすすべもなく落ちてくる。どさりと、僕のところに。お月様みたいな金色が、お月様みたいな君が僕の腕に落ちて、落ちて、堕ちて・・・・。



「君をこうして捕まえるため」



落ちてきた君が、僕の腕で捕まえられることに僕は今日も安堵する。
君は、僕が捕まえられる相手なのだと。
幼い頃求めても届かなかった月のように届かない存在じゃないんだと。腕の中のぬくもりに、確かな質量と質感に合わさった鼓動に、僕は嬉しくなって君を強く抱き締める。
離れようと無茶苦茶に動かす腕も、荒げられた声も、決して手が届かないわけじゃない。
手が届くなら、捕まえたい。捕まえられないわけじゃない。
だから全力で手を伸ばす。罠だってなんだって手段も選ばない。選べない。
僕にとって君は唯一無二の人だから。
だから。


「なんてね、ただの趣味だよ」
「〜〜〜っ!趣味で落とし穴に引きずり込まれるほうの身にもなれ!!!」
「うん、ごめんね?」



僕は今日も穴を掘る。 ざくりざくりと穴を掘る。
深い、深い穴を掘る。
一つを終えたら、また一つ。
いくつもいくつも穴を掘る。
いつか君が僕に堕ちてくれるまで。穴の中、僕は君を待つ。



「まぁ、僕に惚れられたのが運のつきだと思ってよ」
「自分で言うな馬鹿!」





僕の言葉が本気であることを、君はまだ気づかない。











久しぶりの綾三木。
正直、久しぶりすぎるせいか綾部が大人しすぎて綾三木を書いた気がしない(爆笑)
というか、中途半端に黒綾部降臨したのでいつもと毛色の違う話になった。
まぁ、毛色が違っても結局は家の綾部さんは変態だ。







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