「兄ちゃんどうだい?綺麗な細工だろ?いい人に贈るのにぴったりだよ」
そう言って広げられたそれは、確かに綺麗で細工もしっかりしてて、値段も僕くらいの年頃が
女性に贈るには手頃な感じで。
なにより。
「じゃあ、それ一本包んで貰える?」
瞼に浮かんだ、これをつけて笑う姿があまりに似合う気がしたから。
「あいよ。まいどありー!」
思わず買ってしまった。
花簪
「と、言うわけで滝、三木の居場所知らない?」
帰って早速つけてもらおうと三木の部屋に行ってみたら、危険を察知したのか既にもぬけの殻だった。なので手近なところから聞いていこうと、ちょうど通りかかった滝を呼び止めるとなんだか苦虫を噛み潰したような、あるいは福富しんべヱと山村喜三太に出会ったときの立花先輩のような複雑な顔をされてしまった。
「いきなり女性物の着物を片手にと、言うわけでなどと言われてもさっぱり分からないぞ喜八郎。それがこの学園一優秀な滝夜叉丸であろうと」
どうやら僕が女物の着物を片手に三木を追っかけまわしているのが不思議でならないらしい。
「だからね、三木にこれをつけさせようと思って探しているんだけど居場所知らない?」
なので一応説明すると滝はさらに複雑な顔になって溜息までついた。何かまずかったかな?
「・・・そのせいか、先ほどいつも何かにつけて突っかかってくる三木ヱ門がこの私を無視してに走り去っていったのは」
そしてもう一度溜息をつくと三木ヱ門ならあちらへいったぞと指をさした。心なしか自分も五十歩百歩の癖して変なやつに関わってしまったなとでもいいたそうな表情で。
「あー、あっちに行ったんだ」
「ああ、この私を無視してな。ところで追いかけないのか?」
「そうだね、もう少し走らせて疲れさせてから捕まえるよ」
三木のやつ体力あるから真っ向勝負は疲れるし、あちらなら前に兵太夫が新しい仕掛けを作ったと言っていたから引っかかったりしてるかもしれないし。
それだけ聞くと滝はそうか、とうなずいた。ここまで聞いて三木を止めないあたり友情って大事だなぁと思う。
「・・・時に喜八郎、少し疑問なんだが」
「うん、どうかした?」
「お前、何でまた三木ヱ門に女装なんてさせようとしているのだ?」
「ああ、実はさっき町で三木に似合いそうな花簪を見つけてね。折角だから本格的に着飾ろうとしたら逃げられてしまったんだよ」
ほらこれ綺麗だろう?と僕は持っていた竜胆の花簪を滝に見せた。安価ながら細やかで丁寧な仕事をされたそれに、滝は牡丹餅と味噌汁を一緒に出されたようなそれはもう複雑な顔になった。
「・・・そんな根底からして間違ったことを頼まれたのではあいつでなくても逃げ出したくもなると思うのだが」
「そうかな?君の私服に比べたらたいしたことないと思うけど。それに似合うと思わない?三木なら」
「そんな倒錯趣味なこと聞かれて私にどう返せと言うんだ」
「綺麗なものを飾りたくなるのは別に普通のことだと思うけど」
「綺麗だろうが何だろうが女物を着飾って喜ぶ男は山田先生くらいのものだろう。それにお前の方がよほど似合うと思うぞ。あれは女物を着せるには目元がきつすぎる」
「そうだね、その上火器が好きだから腕なんかも実は結構筋肉あるし女性にしては少々ごつくなってしまうかな」
「・・・それが分かっていて何故わざわざそんなものを買ってくるんだ私には理解できん」
そう言って滝はまた溜息をついた。
根本から考え方が違うのさと僕は笑った。
「そりゃあ僕は別に三木に女性らしさなんて求めていないからね。只三木の黄金色の髪と瑠璃の眸にはこの竜胆の花簪の青がかった紫がとても映えるだろうな、その姿で笑いでもしたらさぞ可愛らしいだろうなと思ったら見てみたくて仕方なくなってしまったのさ」
「そうか、私はお前の台詞を聞いているうちに鳥肌が立って仕方なくなってきたがな」
理解してもらえなかった。残念。
「それなら別に着物まで着せる必要性はないんじゃないか?」
「どうせ飾るなら徹底的にやらなくては野暮なだけだよ、滝。幸い僕は作法委員だ化粧などはばっちりだしね」
「死に化粧で鍛えられた化粧の腕なんて、三木ヱ門にとっては不幸以外の何者でもないと思うがな」
「本当に分かっていないね滝、男の微妙な恋心と言うやつを」
「この私としては分かりたいとも思わんな。変態の恋心なんぞ」
「嫌だなぁ滝、変態と言うのは相手の了承なしで夜這いをかけ蜂蜜などを使用した夜を送るような輩の事を言うんだよ?」
「それは既に犯罪だ喜八郎。そして相手の了承もなく女装をさせ、隙あらば押し倒そうと考えているような人間も十分世間では変態と呼ぶと思うぞ」
「・・・変と恋と言う字は似ているのだから仕方のないことだよ」
「理由になっていないぞ喜八郎。そして少しは否定をしろ」
「だって偶には趣向を変えてみなければつまらないじゃないか。それにさぁ」
「開き直るなうつけ。それでなんだ?」
「やっぱり好きな子の色々な表情は見てみたいと思うだろう?」
「・・・」
そんな僕の台詞に滝は三木ヱ門のやつも厄介な人間に惚れられたものだと溜め息をついた。
それこそ今更なんだけどね。
了
・・・出番がないことをいいことにどんどん綾部が暴走した綾三木話。
ここまで天然に変態な綾部を書く人間てどのくらいいるんだろうとちょっと不安。今度から夜
道に気をつけようぜ自分。
つーかこれで出しドリーム小説に使おうとしてたやつなんですが。
・・・乙女をフォモに流用するから変態になったわけか。
戻る