覚えてるのは、青い空と自分の上背よりあった草むら。それと。
「約束」
「約束だよ」
「あたしはあんたの嫁になる」
「僕はお前を妻にする」
・・・叶えられなかった約束。











陽炎の灯−かげらふのひ− 











あたしがここに売られたのは確か5つになる前だったねぇ。
はじめは家に帰りたくて、夜になる度厠でびぃびぃ泣いてたっけ。
ああ、そうそう。そしたら初めてあんたに会ったんだよね。懐かしいねぇ。
そん時あんたあたしの鳴き声を化け物の声と思って泣き出して大変だったっけ。凄い声だったよねぇ。
吃驚してあたしの涙も止まっちまうくらいだったよ。え?よくそんなこと覚えてるなって?
当然じゃないか。あんたのことだもの。
あんたのことなら寝小便の数からそろばんの間違いまで全部覚えてるよ。
え?そんなくだらないことさっさと忘れっちまえって?
やだよ。忘れられるはずが無いじゃないかい。あんたのことだってのに。
あたしは絶対忘れないよ。
あんたがあたしを妖しだと思って泣き出したことも、7つになるまで寝小便たれてたことも
・・・あたしを好きだって言ってくれたことも。
本当に、あの時は嬉しかったよ。こんなあたしに結婚の約束までしてくれて。
あたしゃ、あのまま死んでも良いとまで思ったよ。
今まで生きてきて一番嬉しかった。
あれはね、あたしん中の一番の『思い出』だよ。
だからさ。





「約束を違えなきゃいけなくなったからって泣かないでおくれよ」





仕方がないじゃないかい。ここは『廓』で、あんたはその『若主人』で、あたしはその『商品』なんだからさ。
元々、身分の違う恋だったんだよ。無理にでも結納を結んじまわなかった事を後悔なんざしないでおくれ。
ああ、大丈夫さ。
あたしにゃあんたとの思い出がある。
あんたがあたしを精一杯愛してくれたって言う大切な思い出がある。
だから、何とか某とか言う殿様の妾になることくらい何でも無いんだよ。
あたしの心はあんただけのもんだから。
だから。
泣かないでおくれよ。
あんな童の頃の約束ごときでさ。
あたしまで・・・泣けてくるじゃないかぃ。






覚えてるのは、青い空と自分の上背よりあった草むら。それと。







「約束」
「約束だよ」
「あたしはあんたの嫁になる」
「僕はお前を妻にする」
叶えられなかった約束。
叶えられるはずなどない約束。
それでも、何より大切だった約束。













落乱にはまって(何故か)すぐに書きたくなった時代物。なので時代は多分そのくらい。
それなりに設定は気に入っているので細々続編とか書きたい。
語り手の女性の子供の話とか。何とか扱いされてる殿様の話とか。
確実に暗くなりそうだが。
子供の性別も決まってなかったりするんだが。
娘っ子にして近親相姦に走るのと、息子にして家督争いを避けるために女として育てられるのではどっちがましでしょうね。どっちも倒錯趣味なことは変わりませんが。(げふり)









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