怖い怖い夢を見た。

 



月などなく、星すらなかった。

 



けれど視界にしっかりと焼き付いた。

 



父を亡くした日の赤色の夢を僕は見ていた。

 

 

 



夢の終わり

 

 

 


                
「金吾!金吾!!」

がくがくと体を揺さぶられ目を覚ますと、先日知り合ったばかりの同室者の心配そうな表情が
視界に入ってきた。何というか鬼気迫るというか親の死に目のような形相で。なので僕は驚い
てしまってどうしたの?喜三太。と尋ねると、よかったぁと心底ほっとした様子で息をつかれ
た。
いや、何がよかったのかぜんぜん分からないから。
置いてきぼりな気持ちになりつつ、僕は半身を起こしてもう一度どうかしたの喜三太と尋ねな
おす。

「だって金吾ってばさっきからずーっとうなされっぱなしだし、汗びっしょりかいて苦しそう
だし、何度呼んでも起きないんだもん。僕、もう少しで土井先生を呼んできちゃうところだっ
たんだよ?なのに起きたらきょとんとして大丈夫って聞いてくるんだもん気が抜けちゃった」

そういうと喜三太は手近にあった手ぬぐいを渡してきた。
言われて見れば確かに前髪は額に張り付いているし、寝巻きも川に飛び込んだようにじっとり
と湿っていた。

「そっか、心配かけちゃったよね?夜遅くに起こしてごめん」

手ぬぐいを受け取りながら謝ると、喜三太はぶんぶん首を振ってそんなことない、平気だよ。
とすぐに否定した。そうしてまたちょっと心配そうに。

「それよりもう本当に大丈夫?お腹痛かったりしない?」

と聞いてきた。
いい奴だなぁ。喜三太って。
ナメクジが好きっていう変わった子だと思っていたけど、ちょっと認識変わったよ。ナメクジ
が好きって言うちょっと変わった優しい奴なんだな、うん。
僕はそう納得し、喜三太を心配させないよう笑いかけた。

「大丈夫だよ。ちょっと夢見が悪かっただけだから」
「ゆめみ・・・って夢の中で行きかう道?」
「そりゃ夢路」
「梅の花を見て賞すること?」
「そりゃ梅見」
「二月の異称」
「そりゃ梅見月。じゃなくて、夢見!夢のこと!!怖い夢を見たって言ってるの!!!」
「あ、そういう意味なんだ」

訂正、やっぱりちょっとじゃなくだいぶ変わってるかもしれない。多分・・・絶対。
どんな夢見たの?とか言いづらい事を聞いてこないのはすごく助かるけど。
何だかどっと疲れて僕は肩を落とした。

「まあそれはいいとして金吾着替えちゃいなよ。そのまま寝たら風邪引いちゃう」
「あ、うんそうだね」

言うが早いか襖から寝巻きを取ってきてくれたので、ありがたく着替えることにした。
そうして僕が袖を通していると、喜三太はいそいそと僕の布団と自分の布団をくっつけて、枕
を並べなおし布団に入った。・・・はたから見ていたら新婚さん並べ?とでもからかわれそう
な配置にした上で。

「・・・って何してんの喜三太!?」
「はにゃ?」
「いや、はにゃじゃなくて!もう夏だって言うのに何でこんなにぴとっと布団と枕を近づけて
るのさ!」
「だって金吾怖い夢見たんでしょう?じゃあ手を繋がなきゃだから、布団をくっつけなくちゃ
繋げないじゃないか〜」
「いや、そもそも何で手を繋がなきゃいけないのかわからないよ」
それに絶対暑いし、うっかり朝寝坊でもして誰かに起こされたりした時に恥ずかしいことこの
上ないよ。
「え〜、でも僕怖い夢見たときなんかこうしてもらって、また怖い夢を見たときにはばあちゃ
んが怖い夢をやっつけてくれたんだよ?いい夢を見るおまじないなんだって」
「いや、いい夢を見るおまじないで何でやっつけるとか物騒な単語がでてくるのさ?」
そんなこと言われたら喜三太のばあちゃんが大格闘する夢とか見そうだよ。会ったことないけ
ど。
「ん〜何でだろうね?でもさぁ、こうして眠ればさぁ金吾がどんな怖い夢を見ても僕がすぐに
起こしてあげられるよね?」

 

 

 


そうやって金吾を怖い夢から助けてあげられるよね?
と、喜三太はにっこり笑った。
そうして繋がれた手は暖かかった。
またあの夢をみても大丈夫な気がした。

 

 

 



 

 

 

 



喜三太×金吾ではありません。(第一声それか)
金吾と喜三太は普段からこんな感じの天然バカップルでいたらいいと思う。
それでものの見事に次の日寝坊して兵太夫とかに起こされて爆笑されればいいと思う。

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