不思議な話をしてあげようか?
何処にでもある休日の、ぱっくり開いた非現実的な話を。





狐の恩返し






抜けるような青い空が気持ちよい休日のことだった。
忍術学園1年は組のよい子達は食堂のおばちゃんに頼まれて、夕飯の山菜をとりに来ていた時の事さ。

「いっぱい採れるといいねぇ」
「沢山取れたら町にも売りにいけるよな〜」
「も〜きりちゃんったら、そればっかなんだから」
「山菜御飯楽しみ〜」
「僕はタラの芽のてんぷらがいいなー」
「蕗の煮たのも美味しいよ」
「蓬も取っていこうよ、おばちゃんに草餅を作ってもらえ・・・」
「皆!静かに!」

和気藹々と山道を歩く中、一人の子がそれを遮った。

「どうしたの?団蔵」
「静かに、耳を澄ませてみて」

みんなはその子の言うとおり、静かに耳を澄ませてみたよ。
するとね、茂みのほうからコーン、コーンと言う鳴き声が聞こえてきたのさ。
これには良い子達もびっくり仰天。お互いすぐ近くの友達と顏を見合わせた。

「ねぇねぇ、これってもしかして」
「狸だ!」
「違うよしんべヱ、鼬だよ〜」
「いや、それも違うから喜三太。どう聞いたって狐だろ?」
「それにしてもこんなところで狐なんて珍しいよね。まだ人里も近いのに」
「こっちから聞こえるね」
「なんでずっと鳴いてるのかな」
「怪我でもしてるのかも。行ってみよう」

そんな学級委員の子の合図と共に、彼らは声を頼りに茂みの中へと狐を探しに入ったのさ。
自分の背ほども伸びた草を掻き分け掻き分け苦労しつつ、ガサガサゴソゴソすってんころりと転びつつ、四半刻ほどもかけながら彼らは狐を見つけたのさ。
世にも珍しい白い仔狐を。

「わぁ、すごいや。白い狐だ」
「雪ウサギみたいに真っ白だねー」
「僕、こんな狐初めて見るよ」

彼らは思わず感嘆の声を上げたよ。
そりゃあ、そうさ。雪のように白い狐なんてめったに見られるもんじゃない。
彼らは白い狐を驚かさないよう、いきなり逃げ出さないよう慎重に慎重に近づいた。
そして、はっと気づいたのさ。狐の足にがっしりと罠が食い込んでいることにね。

「左足が罠にかかって動けなくなっちゃったみたいだね」
「あんなにちっちゃいのに可哀想だね。ねえ、あれ外しちゃったらまずいかな?」
「大丈夫じゃない?最近かけた罠にしては錆びれすぎてるもの。多分狩りのためじゃなくて何年も放って置かれたままだった罠が誤作動しちゃったんだよ。全く、そういうのはちゃんと回収しなきゃ駄目なのに」
「おお、からくり大好き少年兵太夫が怒った」
「でも、怒るのも無理ないよ。ここらは人だって通るのに危ないもの」

そうして、兵太夫同様ぷんぷん怒り出した彼らは白い狐の罠を協力して外してあげることにしたのさ。

「兵太夫、外せる?」
「うーん、仕組みは大体分かるんだけど一人じゃちょっと難しいかな。道具がないから。錆びれた部品外すのに力がいりそうだし、しんべヱと虎若に手伝って欲しいかな」
「わかった、じゃあしんべヱと虎若は兵太夫を手伝って」
「わかったー」
「任せてよ」

罠に詳しい子や、力の強い子が罠を外し。

「あとは、怪我をしているみたいだから乱太郎手当頼める?」
「わかったよ。それじゃ誰か傷口を洗うのに川で水を汲んできてくれない?私ときりちゃんで今のうちに薬草を摘んでくるから」
「え?俺も?」
「だって二人で探したほうがいいから。それで、出来れば綺麗な手ぬぐいを裂いておいてくれると助かるな。あ、念のため添え木になるような枝も拾ってきて欲しいな」

保健委員で薬草に詳しい子と、山菜取りに慣れている子は薬草摘みに。

「わかった、じゃあ金吾と団蔵で水汲みに行ってもらえる?」
「おう!わかった」
「じゃ、水筒が空の人は僕らに貸して」

力と体力のある子は、水汲みに。

「頼んだよ。じゃあ、喜三太と三治郎で手ごろな枝を捜してきてもらえる?ついでに他にも放置されているような罠があったら壊してきて。僕と伊助は手ぬぐいで包帯を作っちゃうから」
「わかった、任せてー」
「いいよ、行ってくる」

几帳面な子たちは包帯作り、力の弱い子は枝探しと罠壊しとそれぞれ協力しながら白い仔狐を助けてあげたのさ。
まぁ、手際のよい子達ではないから半日ほどかかってしまったのだけどね。
それでもまぁ、お天道様が沈む前にはちゃんと手当ても終え罠も壊して狐を山へ帰すことができたそうさ。
残念ながら、山菜取りに行く前に帰らなきゃいけない時間になってしまったけどね。
仔狐を助けられたし、それでいいよね。仕方ないさと彼らは狐に別れを告げて忍術学園へ帰ったのさ。





ところが、ね。





彼らが忍術学園に帰ってみると、不思議なことに食堂の前にどっちゃりと採れたての山菜が届いていたんだ。
蕗もせりもタラの芽やらこごみやらぜんまいやら蓬やらありとあらゆる山菜がかごから溢れんばかりにね。
みんな驚いて目をぱちくりぱちくりさせてたよ。

「すっげー、俺こんな山盛りの山菜初めて見たぜ」
「おばちゃん、この山菜どうしたの?」
「それがねぇ、さっぱり分からないのよ。あたしがちょっと目を離した隙にここにどっちゃり山菜が置かれていたの」

上級生のいたずらかしらねえ。
そういっておばちゃんも不思議そうに首をかしげていたよ。
まあ、とにかくおばちゃんの美味しい山菜料理を食べられるんだから良かったね、と彼らはにっこり笑ったそうさ
めでたしめでたし。
























え?これじゃあ狐と不思議なことは関係あるのか分からないって?
そうだね。これでは分からないね。
もしかしたら関係ないのかもね。不思議だね。
うん?じゃあ、後ろの稲荷神社は何なのかって?
ああ、そうだね。狐像の一つに包帯のような布きれが巻かれているね。
え?知らないよ。
不思議なことと、助けた狐、それにこの稲荷神社が関係あるのかなんてそんなこと私は知らないよ。
何しろこれは不思議な話。
真実なんて誰にも分からないものなのさ。
狐の恩返しだったらなんとなく素敵かもねと言うだけの、ちょっと不思議な話なのさ。










おしまい。














2000打記念フリー小説。
・・・うん、2000打記念企画だったんだよ。これ。
もはや5000打記念にしたほうがよさげだけど。
こんなんに何ヶ月かかってるんだ己。
にしても、うちのは組小説は本当に乱きりしんが目立たねぇなぁ。(苦笑)








戻る