庄ちゃんと若旦那の秋
秋休み明けのある日、部屋で僕が本を読んでいた時のこと。
「庄ちゃん、庄ちゃん。手ぇ出して?」
どたどたと廊下を騒がせていた(きっと走ってきたんだろう)団蔵が開口一番、襖を開けるなり言った。
「ん〜、何?」
「いいからいいから。あ、目は開けないでね」
いきなりのことに首を傾げる僕に、団蔵はニコニコと笑ってそう言う。
一体何を渡すつもりなんだろう。
疑問に思いながらもとりあえず本にしおりを挟んで、言われたとおり目をつぶって手を出してみる。
すると掌に数個のつるりとした何かが転がった。
何だろうと思い僕は目を開けようとした。
「あ、庄左エ門まだ見ちゃ駄目」
だが、掌に転がったものの正体を見る前に団蔵の掌で目の前が覆われた。
なんだって言うんだろう。
「これ、な〜んだ」
凄く楽しそうに団蔵が尋ねる。どうやら、当てっこがしたかったらしい。当たったらあげるね、と僕の目を覆ったままクスクス笑っている。
・・・当てるまで離してくれないんだろうなあ。
本読みたいんだけどなと思いつつ、仕方がないのでさっさと当ててしまおうと僕は掌に乗ったものを指先で確認する。
ん〜・・・手触りからして木の実かな。
椿の実・・・は時期が違うし、銀杏とかドングリにしちゃ大きいよな。椎の実・・・にしちゃふっくらしすぎか。と、すると。
「・・・栗?」
「正解!」
心なしか嬉しそうな声が聞こえて、僕の目を覆っていた手が離れる。
「へえ、大きくて艶も良い。上物だね」
「だろ?丹波栗だぜ。兵太夫の家に届け物に行ったとき途中の山で拾ったんだ。美味しかったからお裾分け」
「そっか。ありがとう」
「でも、は組のみんなに渡すにはちょっと足りないから他の人には内緒だよ」
「え?そうなの?」
「うん、悪いなあとは思ったんだけど流石に十一人分は他の荷物もあるのに持って来られなかったからさ。でも庄左エ門には夏休みの宿題手伝って貰ったし」
そのお礼だから特別だよ、と団蔵は栗の入った綺麗な包みを僕の掌に乗せた。
そう言うことならと、僕も受け取った。
「でも、他のみんなに悪いなあ」
「んじゃ、今からうらうら山まで栗拾いに行こうよ。みんなも分も」
「二人で?」
「うん、どうせだからいっぱい拾ってきてみんなを驚かせてやろう」
いたずらっ子みたいにそう提案する団蔵は本当に楽しそうで、僕はため息を吐きながらいいよと答えた。
団蔵はやったぁとはしゃぎ、僕は明日この本の延滞手続きしなくちゃなと思った。
了
友人から貰ったイラに触発されできあがった話し
うちの庄左エ門と若旦那は常に天然でこのくらいいちゃついています。
・・・いちゃついてるに分類されるよね?(聞かれても)
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