「学校中の噂になってんぞ」
そうですか。楽しそうですね、こん畜生。
迷い月
「何がですか?」
とぼけることなど不可能と思いつつも、最後の悪あがきとばかりに潮江に向かって三木ヱ門は笑顔を浮かべた。
スマイル0円。
そんなキャッチフレーズが脳裏をかすむ。この時代にファーストフード店が存在し、このような笑顔をを浮かべられたらなすすべもなくポテトとハンバーガーを頼んでしまいそうな見事な作り笑いである。
だが残念ながら時代は室町、しかも場所は忍術学園である。そのような笑顔を見せられようと潮江に効果などない。
せいぜいが、彼の一般的に悪人面と評される目つきの悪い顔が、まるで盗賊や山賊を髣髴させるような笑顔に変わるだけである。
・・・・小さな子供がまともに見ていたら泣き出すだろうし、気の小さな年寄りなら腰のひとつも抜かすくらいの効果はあるだろうが。
それはさておき、潮江はふっと笑うと三木ヱ門の肩に手をぽんと置いた。
「そりゃあ、お前に男の恋人ができただの校庭で抱き合っていただの、滝夜叉丸を巻き込んでの三角関係だのあることないこと大量に流れてたぜ?」
「って、全部ないことじゃないですか!」
三木ヱ門渾身の突っ込み。
しかしそんなものは暖簾に腕押し、糠に釘。潮江はそれをさらりと交わして含み笑いをするばかりである。
「んなこと言ったってこっちにゃそう噂されてんぞ。だいたい火のねえところに煙が立つかよ」
「そんな放火も甚だしい火の煙を一々拾ってこないでください」
「阿呆。煙が拾えるか。意識しなくとも自然と吸い込んじまうから厄介なんだろうが、あれは」
「じゃあ火元に近づいてこないでください」
「消さなきゃまずい事態なら確認は必要じゃねえか」
「嘘だ!対岸の火事を楽しむ腹でしょう」
「他人の不幸は何とやらというからな」
「うわ。あっさり認めたよ、この人」
「で。実際どうなんだ?」
「しかも流した!最悪だ!・・・まぁ、校庭で抱きつかれはしましたよ」
投げやりな態度というものに階級があるとすれば、今の潮江を越えるものはいないだろう。何せ投げた槍が見当たらない。
三木ヱ門は大きくため息をつくと正直に答えを返した。
「ほぉ、尻は掘られてねえんだな?」
「真昼間からの話題じゃないです先輩。そして掘られてなければ唇すら許してません!!」
「あぁ?時間の問題だろ。そりゃ」
「不吉なことをさらっと言わないでください!守りますよ!そういうのは」
「いや、別につまらねえから俺としてはお前が唇だの尻だのを奪われてもいいんだが」
「だからかわいい後輩の不幸を楽しまないでください!今でも十分僕にとっては災難なんですよ!?」
「ならさっさと殴り倒せばよかったじゃねえか。お前、体技だって割とできたはずだろう?」
「ええ。人並み以上には・・・まぁ、だからこそなんですが」
「あぁ?だからこそ何だってんだ」
早く言え、といわんばかりにぎろりと潮江は三木ヱ門を睨みつける。
「いや、僕基本的に女の子とか殴れないんで・・・」
「はぁ?抱きついてきたのは男だろ?」
「それはそうなんですけど、そいつがまた華奢だし女顔だったんですよ」
「はぁ〜ん、女を殴る気分になって気が引けたか」
「まぁ、かいつまんで言うならそうです。なんというか、こっちのほうが罪悪感に駆られそうで殴れなかったんですよ」
「そうか、じゃあ先輩として一言言うぞ。ためらうな」
「そりゃ、わかってますよ。忍者がそんなことでためらっていちゃいけないことくらい」
「馬鹿め。そういうことじゃねえ」
「はぁ?じゃあどういうい・・・」
「やつは作法委員だ」
「・・・えーっとそれが何か?」
「お前は容赦してるようだが、あそこは容赦なんてないぞ」
「潮江先輩、そんな鬼の巣窟か何かじゃあるまいし」
「馬鹿め。鬼より質が悪いのぞろいだぞあそこは。まぁ、最良なのはあれだな」
「え?何か対処法があるんですか?」
「諦めろ。それが一番手っ取り早い」
諦められるかー!!切実な叫びとともに三木ヱ門は文机ごとそろばんを投げた。
了
太陽は苦悩する後の綾三木前提文+三木話。
うちの三木は綾部を殴れないのはこういう理由です。だから見事に付け込まれるんだよ・・・
そして頼りにならない先輩文次郎。うちの文次郎は心の底から遊んでます。
所詮人事だから・・・
それにしてももんじに対してまで受けくさいな、三木。何故だろう
戻る