「ずるい」


たった一言、ポツリとそう呟くと団蔵は布団に横たわったまま僕を見上げた。

「絶対不公平だ。こんなの。無茶苦茶痛いし」

そんなことを言いながら目元を潤ませ、思わせぶりに目を逸らす。感極まって、泣けてきちゃったんだろう。
怒ったり、笑ったり感情が高ぶると団蔵はすぐに目が潤むから。
根が素直な奴だからなのかな、団蔵は感情が顔に出やすい。その上、感情の起伏もかなり激しいほうだから自然と表情の方も常に怒ったり笑ったりと忙しい。
だから人に比べて顔の筋肉の動きも豊かなんだろう。それは涙の方もらしく、そのくせ他人に涙を見せまいとする性質のくせに意外と涙もろいのだ。同室になってからと言うもの、僕は結構な回数彼のこんな様子を見ている。

「うん、ごめんな?」

だから僕はいつもどおり、団蔵の表情を見ないように気をつけながら髪をぐしゃぐしゃっと撫でた。
けれど今日は機嫌が悪いせいか、それとも少しばかり小さい子を甘やかすように撫でたのが気に入らなかったのか団蔵は――――――そういえば先日近所の小さい子に対して同じ様なことをしていたからそれを思い出したのかもしれない。割とぼっちゃんのくせに、甘やかされるのを毛嫌いするところがあるから――――――「謝るなよ、馬鹿」とすねて口を尖らせてそっぽを向き、僕の手を払いのけた。
子供だ。図体ばかり大きくなって甘やかされるのを嫌がるくせに反応はまるで子供だ。
僕はそれがおかしくて、彼にわからないように口元だけで笑ってもう一度ごめんな?と謝った。そうすると、「あー」とか「うー」とか彼にしては煮え切らない様子で呻きだす。そして

「別に本当に虎ちゃんが悪いわけじゃないんだから謝るなよ」

と気まずそうに言った。
ああ、自分でも子供みたいなことしてるって気付いたな。覗き込んだらきっと罰の悪そうな顔をしているだろう団蔵の顔を見ないまま僕はまた彼の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。

「子ども扱いもするなってば」
「してないよそれより痛いなら夕飯おばちゃんに頼んで持ってきてあげようか?」

体、辛いんだろ?
そういうと僕には意地を張っても仕方ないと思い直したのか漸く素直になって「・・・お願いします」と、言った。
ホント、最初から素直になればいいのに。でも、団蔵にしてみたらやっぱり納得いかないことなんだろうな、これは。






「くっそ、何で俺よりよっぽどでっかい虎ちゃんは成長痛なかったのに、俺はこんな関節ギシギシゆってんだよ。不公平だ!」





徐々に伸びた僕と違って団蔵はこのところ短期間で一気に伸びてるじゃないか、と喉まででかかった正論を飲み込んで僕は部屋を出た。
もう暫くは彼のわがままに付き合うのも悪くない。










(だって甘え嫌いの彼がこんなにわがままを言うのは僕だけだから。信頼されてる証拠でしょう?)





成長痛










習作虎団。
久しぶりの更新が虎団だとはお釈迦様でも思うまいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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