例えば、僕らのどちらかが女の子であったのなら。
例えば、僕らのどちらもが同じ道を歩むのだと言い切れたのなら。
例えば、好きと言うだけでいつまでも一緒にいられるほど世界が綺麗だったのなら。
例えば、好きと言うだけでいつまでも一緒にいられると信じきることが出来たなら。
そんな綺麗事を信じ込んでいられたなら。
気づかずに歩いていけたのなら。




きっと世界は幸せだと勘違いしていられたのだろうけれど。




この世界の残酷さを知ってしまった僕は、未来を探さずにいられなかった。




それが間違いだらけの道でも。












羅針盤












「団蔵」
「何?庄左ヱ門」

普段はそれこそそっけなく。甘えたそうなときはこれ以上なく。
だけど甘やかしちゃいけない場面ではそこそこに。

「好き」
「――――――真顔でそういうこと言うなよ」


程よい関係でいられるあたりを見極めて見極めて。


「うん、でも嫌じゃないだろ?」


僕は団蔵を甘やかす。


「――――――そりゃ、そうだけど」
「じゃあ、言わせてよ」


植物に水をやりすぎて根腐れしてしまうみたいに、僕といることで彼が駄目になることがないよう。


「庄ちゃん?」
「言葉にしないと不安なんだ」


案外甘え下手な彼が、甘えることで変わってしまう自分に不安を抱かないように。


「見せることができればいいんだけど、残念ながら思いは目に見えないものだから」


変わっていく自分に気づけないように、少しずつ少しずつ。


「形にできないものだから」


彼の欲しい言葉を

「せめて言葉で伝えておきたいんだ」


彼が望むぬくもりを


「・・・駄目?」
「駄目じゃないけど」
「そう?よかった」


程よく甘えられえるように与えて、与えて。
心の底から甘えられるように、僕は団蔵を甘やかす。


「好きだよ、団蔵」
「・・・恥ずかしいヤツ」
「だってほんとのことだもの」


彼が僕から離れることなんてできないように。
この程よく心地よい関係を、崩したりできないように。
ずっと一緒にいられるように。


「好きだよ。ずっと」


間違った道だと気づいていながら、僕は彼から未来を奪う。
甘い言葉で、温かなこの腕で、君の目を閉じ耳をふさいで僕は君の未来を奪う。


「ずっと、一緒にいたいよ」
「うん」


そうすることで、君がこの手を離さないように。


「本当だよ」
「うん。わかってるよ」


君がこの手を離すことができないように。
離れたいなんて微塵も思わないように。


「僕だってそう思っているんだから」


言葉の糸でぬくもりの鎖で僕は彼を縛り付け間違った道に進ませる。


「僕だってちゃんと庄ちゃんが好きだもの」


それは酷いことなのかもしれないけれど。
それでも僕は君との未来が欲しいから。


「本当に、本気で好きだから」
「うん」


行き着くところがわからないように羅針盤を投げ捨てる。


「ずっと一緒にいたいよ」
「うん、じゃあ約束」


明日すらも見えないけれど。


「ずっと、ずっと一緒にいよう?団蔵」

壊れた羅針盤が示すあるはずのない幸せな終着地点に向かって僕らは歩み始めた。

























黒庄左ヱ門×団蔵話。
Å型は割りと理屈で恋をするので(自分はそうです)庄ちゃんはこうやって全てを計算しつくし、策を弄しまくりながら団蔵を落とすってのもありだと思う。
もしかしたら熟れた罪の数年前位の話。と考えるのもありかなーと、思いつつでもそうするとその間の話書かなきゃ繋がらないので余計なことは言わないでおこうと思う(書いてるけどな)








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