強くなりたいと思った。

まだまだ幼いにもかかわらず、強くあろうとするあの子 を支えられるくらいの強さが本気で欲しいと思った。

守りたいと思った。

たった一人で泣く、何よりも大切な存在を。

 

 

 

 

 

誓い 前編   

 

 

 

 

 

戦が終わってその片づけも大体終わるそのころにゃ、影はとうに俺の背を追い越し空はすっかり茜に染まっていた。
よく見ると星もちらほら出始めていて、風は少し冷たくなり虫の声を運んできた。
何時の間にやらすっかり飯時だ。
気付いた途端ぐうう、と腹の虫が鳴った。 全く我ながらわかりやすい。
俺は若旦那にそろそろ帰りやしょうといつもの調子で声をかけた。
が、どうやら若旦那の方はいつもの調子とは行かないようで、声をかけた途端びくりと小動物のように小さな肩が震えた。

「若旦那?どうかしやしたか?」

普段から活発で男気溢れるお子さんである若旦那にしちゃあ珍しい様子だなと思い、俺は尋ねてみた。

「あー・・・うん。別に何でもないよ。急に声をかけられてびっくりしただけだから」

気にしないで、と若旦那は笑って見せた。
しかし、俺の方を振り返って答えた声は普段より覇気がない。
心なしか表情の方も笑っているのに何処か無理をしているように強ばっている気がする。

「そうですか?お疲れなんじゃないですか?昨日、今日と馬で村中かけずり回っていらっしゃいましたし。それとも何処かお加減がよろしくないんじゃねえですかぃ?」

顔色は別に悪くないが、もしかしたら腹でも痛いんじゃないかと心配になり尋ねてみた。

「大丈夫!元気だし。ちょっと疲れたけどそんなの清八やみんなだって同じだろ?そんなことより帰ろうよ。僕もおなか空いた」

と、首をぶんぶんと振って否定されるだけだった。そしてそれ以上何か言おうにも

「もう!本当だって言ってるだろ!帰ろうってば!」

と言われるだけなのでそれ以上の事は何も言えず、やっぱり何処かおかしいなぁと思いながらも俺は若旦那の後を追い屋敷へと馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな風に若旦那がおかしかった夜のことだった。
やたらと白く輝く月に、俺は何となく寝付くことが出来ず、夜風にでも当たってこようと散歩に出ていた。  
虫の声に誘われるように当てもなくそこらをふらつき、さていい加減帰らねえと明日の仕事に響いちまうなと踵を返した時だった。
がたん、と確かに厩の方で音がした。
馬が何かをけっ飛ばしたとかという音にしちゃあ妙に静かだ。、そんなんよりは誰かが厩の戸を開けたときのような音に似ているなぁと思い、俺はもしや馬泥棒じゃなかろうかと警戒しながら棒きれを掴み厩の方に向かった。
抜き足、差し足。
背中に冷や汗をかきつつ慎重ににじり寄る。
そしてこっちが踏み込むにも逃げるにもぎりぎりの位置で聞き耳を立て、様子をうかがってみた。
すると。




 

 

「・・・かった・・・っく。・・・んと、うえっ・・・かったぁ」

 

 

 

と、子供のすすり泣くような声が聞こえた。
俺はもしかしてと窓から中を覗いてみた。

あの戦の間も涙一つ流さなかった若旦那が膝を抱えて泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14巻に清八さんが出てたとしたら、ネタ。続きます。

 

 

 

 

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