加藤村清団事情
1、子供的嫉妬事情
「ん〜と、え〜っと、ん〜っと、何だったっけなぁ」
「どうしたんです?若旦那」
「うわあ、清八帰ってたの?」
「あ、はい。ついさっき」
「なんだよもう。それならちゃんとただいまって言わなきゃびっくりするだろ」
「すみません。ただいま戻りました」
「ん、お帰り。ご苦労様」
「それはそうと何を唸ってるんですかぃ?」
「え?僕唸ってた?」
「ええ、そりゃぁもう、さっきから唸りっぱなしじゃないですか」
「そうかな。実は宿題なんだけど一問だけわかんなくって」
「へえ、どんな問題です?」
「刀の各部の名称。柄頭とか鎬とか何処だったか思い出せないんだ」
「へぇ、忍術学園じゃそんなことも習うんですか。なら教科書なんかに載ってるんじゃないですか?」
「いや、それが何処に載ってるかさっぱりわかんなくってさ。あー、こう言うときに金吾か庄左エ門がいればなー。いっそ庄左エ門の所に聞きに行・・・」
「あ、それじゃあ明日隣町の刀鍛冶の所まで鉄を届けますんで一緒に行きませんか?」
「ああ、あのお得意さんのとこ?うーん、でもいきなり僕まで行ったら迷惑じゃないかなあ」
「大丈夫ですよ。あの爺さんも若旦那に会いたがってましたから。あ、それにその近所に美味い団子屋も出来たんですよ。特に若旦那が好きな草団子が美味いって評判なんです」
「本当?行ってみたい!」
「でしょう?だから明日は庄左エ門君の所じゃなくて俺の配達について来て下さいよ」
「うん。じゃあ明日は清八の仕事を手伝うって父ちゃんに言ってくるね。僕と一緒なら他の隣町への荷物も頼まれるかも知れないし」
「ああ、それなら俺から話しておきますよ」
「いいよ、清八帰ったばっかりで疲れてるだろ?ちゃんと僕が言ってくるからお風呂にでも入ってきなよ夕飯の前にさ」
「そうですか?じゃあお言葉に甘えて」
「うん。あ、そうだ清八」
「はい。何ですか若旦那」
「誘ってくれて嬉しかった。有り難うな」
「・・・」
「そんだけ。じゃあ後でね」
「まいったなあ」
誘ったのは正直、子供以下の嫉妬から。
それでもあなたは無邪気に喜んだりしてくれるから、その可愛さに俺は静かに苦笑を浮かべた。
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2.毒矢の話後捨て身事情
そりゃ、荷物を無事に届けるのは馬借の仕事だけどあんまり無茶しないでよ。
すみません。
怪我して、平気そうな顔して、山田先生が気付かなかったらそのまま帰ろうとして・・・
すみません。
毒矢だったって聞いて、僕本当に心配したんだよ?
すみません。
謝るくらいならそういうことするなよ!
すみません。
僕は僕のせいで清八が死ぬなんて嫌なんだからな!!
若旦那のせいじゃないですよ。
そういって僕がここの生徒じゃなかったらこんな危険な仕事を頼まれやしなかったのに、清八は困ったように笑うから。
僕は自分の拳に爪を立てるしか出来ないんだ。
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3.加藤村若旦那事情
「ねえ、清八。神様っているのかな」
ざくり、ざくり、表情を変えることなく若旦那は穴を掘る。
「神様がいるなら、どうしてこいつは死ななきゃいけなかったのかな」
泣きはしない、声をあらげることもない。
いつもの豊かな表情を失ったような感情の見えない顔のまま、只ひたすらに穴を掘る。
「コイツ何も悪いことしてないのに」
自分が世話するはずだった、小さな仔馬の墓を掘る。
「息もさせてくれないなんて、まるでコイツが生まれてきちゃいけなかったみたいだ」
産声すらあげられなかった、小さな仔馬のための墓を掘る。
ざくり、ざくり。
泣いたりなどはしない。涙のかわりにひたすらに若旦那は墓を掘る。
「もういいかな、清八コイツを埋葬するの手伝って」
そうして仔馬に土をかぶせ、石を置き簡単な墓を作ると若旦那は手を合わせた。その手は震えていた。
そうやって全部が終わると若旦那はようやく泣き出した。
わんわん、わんわんとせきを切ったようにひっきりなしに泣き出した。
やるべきことをすませてからでしか泣くことも出来ないこの子は、この歳でもやっぱり若旦那なのだと思った。
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4.清八的嫁事情
「かみはね、つやつやでくろくてはだはゆきみたいにしろいすごいきれいなひと」
「はぁ」
「それで、やさしくって、きだてがよくってあたまがよくてりょうりじょうずでー」
「はぁ」
「おそうじとかおさいほうもとくいで」
「・・・若旦那」
「なに?せーはち」
「そんな完璧な嫁なんていませんよ」
「えー、どこかにひとりくらいいるかもしれないよ?」
「でも、そんな人が俺の嫁になってくれるとは思えないですよ」
「だいじょうぶ!せーはちかっこいいもん」
「そんなこと言ってくださるのは若旦那だけですよ」
「そんなことないって!だからせーはち。そんなひとをおよめにもらうんじゃなきゃぼくはゆるさないぞ」
「・・・はぁ」
こりゃぁ自分は嫁を貰えそうにないなぁと、清八は苦笑した。
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5.続清八的嫁事情
「それにしても、そんな嫁を貰ってこいだなんて若旦那はなかなか手厳しいですねぇ」
「そりゃあ、だってそのくらいじゃなきゃせーはちをまかせられないだろ?」
「へ?」
「ぼく、せーはちにはとびきりしあわせになってほしいんだから。とびきりしあわせになれるようなひとじゃなきゃこまるよ」
「・・・俺が幸せにされるんですか?」
「うん、とびきりしあわせなせーはちのみっつめのかぞくをつくってね。せーはち」
「はぁ」
それには条件がきついなぁ、とか今でも充分幸せですよとかいいたいことは色々あったが、清八はにこにこ無邪気に笑う子供につられ笑って頷いた。
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掲示板の清団文総まとめ。
こうしてみるとうちの清団は清→→→(越えられない壁)→団くらいの一方通行で、清八はいとこのお兄さん位の位置なんだと言うことが良くわかるなぁ。
小さい頃のほうがよっぽどバカップルだよこいつらは。
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