さぁて、若旦那。今日の寝物語は何がいいですか?
え?怖い話ですか。
うーん、あんまり知りませんね。
あーでも、そういや2年位前に・・・。いや、たいしたことじゃないんですけどね。
え?それでもいいんですかい?はぁ・・・
じゃあ、話しますけどそんなに寝る前なんであまり怖い話じゃありませんぜ?

 

 

 


空色びいどろ

 

 

 

前に紀伊の方に配達に行ったときの帰りの話なんですけどね。
途中の町で祭りがやってたんですよ。ええ、結構大きな祭りで屋台なんかも結構出ていて。
あ、はい。そのうち機会があったら一緒に行きましょう。
って、そうじゃなくて。
そのときにね、何ていうか不思議な屋台があったんですよ。
いや、開いてる人間が珍妙な格好しているわけじゃなくって、置いている品物がね妙に上等な衣だったり、かと思えば履きふるしたような草履だったり、本もあれば扇子だとか風車だとかてんで統一性のないもんが乱雑に置かれている店でしてね。
何気なく通り過ぎようとしたらふと、ね。
ひとつのびいどろ細工が目についたんですよ。
え、いや別段変な感じはありませんでしたよ?ええ、ごく普通のびいどろでおとも普通にぺっこんぽっこんってなりましたし。まぁずいぶん綺麗な空色だったからでしょねぇ。
暫くじーっと見ていたらしくて、店のじいさんが「そんなに気に入ったんなら安くしておくぞ」
って声をかけられましてね。
妙に目を引いたし、若旦那の土産にちょうどいいかなぁと思って買ったんです。
そんでまあ、帰りを急ぎながらちょっときつめの山道を馬で走ってたんですが、とっぷりと日が暮れちまいまして。
こりゃあ、野宿が出来そうなとこまで行かなきゃまずいなと進んでたんですが、霧まで出てきちまいましてね。
それがまた濃いの何の、一寸先も見えやしねぇまるで牛の乳でもぶちまけたかのような有様でしてこのまま走るのは危ねえやと異界妖号を止めようとしたそのときでした。

ドォン!!っとね。

こう、いきなり何かに突き飛ばされたんですよ。
誰もいないはずの山道で、馬から転げ落ちちまうくらいすごい力でね。
幸い速度は緩めてましたし、落ちたところも落ち葉なんかが積もった柔らかい土だったんで怪我もしなかったんですがね、はずみで懐に入れていたびいどろが転がっちまいまして。
こりゃあいけねえと、俺は拾いに行こうとしたんですよ。
そうしたらね。異界妖号のやつ、何だか戦慄いてそのびいどろを蹄で踏み潰しちまったんですよ。
パリンと。
そしたらまあ、不思議なことに霧がすうっと引いていきましてね。
ほら、波が引くようなああいった感じですうっと。
それで異界妖号が踏み潰したびいどろの残骸の方を見て血の気も引きましたよ。
なんせびいどろが転がった一尺もいかないあたりはね、切り立った崖っぷちであのままびいどろを取りに行ってたら落ちて命もなかったかも知れないんですからね。
それでまあ、あとは普通に野宿できる場所まで移動して朝になってからこっちに帰ったわけなんですが。
え?そのびいどろと霧は何か関係あったのかって?
いや、そんなの分かりませんよ。ただびいどろが壊れたのと同時に霧が晴れただけなのかも知れませんし。突き飛ばされたと感じたのも、木の枝かなんかにぶつかっただけなのかも知れませんしね?
只、あのとき異界妖号がいなかったら俺はこうして若旦那に寝物語も出来なくなってたのかも知れねえなぁと思うと無性に怖かったって話ですよ。
え?ああそうですね。
馬頭観音様が異界妖号を通じて悪いものから俺を守ってくださったのかもしれませんね。
何しろその前の日に若旦那が無事を願ってお参りに行ってくださったんですからね。
俺はちゃあんと覚えてますよ。
あれ?若旦那?若旦那?
何で頭っから布団を被っちまうんですかい?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 


薄気味悪い話清団編。実家で妖怪の本読んでたら思いついたのでやってみた。
ビードロって厄払いに使ったらしいけどね。これ思っくそビードロの方に悪いもんついてそうだよね。
まぁ、神聖なはずなもんに何か憑いてるってよりタチ悪そうでいいかなぁと。
自分としてはかなり糖度高いと思うんですが明らかに世間の清団から遠ざかった気分です。というかこれメインが清八の薄気味悪いこと体験談なんで物凄くフィルタかけなきゃ清団に見えないかもしれません。駄目じゃん。

 

 

 

 

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