七夕にまつわる物語
雨の七夕(綾三木)
今年の七夕は雨だった。
「・・・残念だね」
空を見上げながら、心の底から残念そうに綾部が呟く。
普段は大して表情もなく、せいぜいが笑みを浮かべるくらいの綾部にしては随分憂いを帯びた顔をしている。
珍しいな、こいつがこんな顔をするなんて。
僕は何となく綾部から目をそらせなくて、そのまま彼を何となく見ていた。
すると、綾部は僕の視線に気づいたように振り向いて薄く笑った。
「一年に一度しか会えないのに、雨が降ったらその年は会えないなんてかわいそうだよね。なんだか二人が泣いているみたい」
そういって、綾部は自分の方が泣きそうな顔をした。
僕は、御伽噺にそんな顔をしてみせるこいつに少し呆れて。でも、そんなこいつらしさが放っておけなくて何となくこいつの隣に座った。
「馬鹿かお前は、雲の上に天があるんだから雨が降ろうが会えたに決まってるだろう」
そして出来る限りの憎まれ口を叩いてみせてやる。
「だからこれが二人の涙だというなら今頃再開できたことに喜んで泣いてるんだ」
だからそんな顔を僕に見せるな、と言うと綾部は何故か嬉しそうな顔をして僕に抱きついた。
「おい!何するんだこの馬鹿!!」
「うん、なんだかすごく君が好きでよかったなって再確認したことを表現してみた」
「は?全然話に脈絡がないぞ!この馬鹿!!離せ!暑い!!」
「嫌だよ。今日は恋人同士が逢瀬を認められている日なんだから。簡単に手放したりできるはずないじゃないか」
そういってにっこり笑う綾部はすっかりいつもの調子を戻していた。
色々納得できないけれど、さっきまでの表情よりはずっとましかと僕は仕方なく暫く大人しくしてやることにした。
特別な夜だから、僕は黙って抱きしめてくるこいつの力が強くなるのを気づかない振りをした。
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2006年七夕記念、24時間小ネタ更新強化企画第一弾、綾三木。(午前0時くらいにアップ)
あれ?何か甘いぞ?
気が向いたら他にも増えます。
晴れの日の七夕(成長庄団。多分三年くらい)
面白いから読んでみなよ。
そう言ってあいつは一冊の本を押し付けてきた。
正直なところ、僕は本なんてあまり好きじゃない。
それはあいつも良く知るところだ。だがそれにもかかわらず、今日の彼は随分強引に押し付けてきた。
多分、何かしらの意味があるんだろう。
仕方がないので、しぶしぶと言われたとおり本を開いてみた。
『晩御飯の後、月見亭で』
数頁も開くと簡潔でそっけなさすら感じる手紙とすら呼べないような紙切れが、まぎれていた。
「・・・そのくらい口で言えよ。ばーか」
まったく、案外面倒な手順を踏むの好きなんだよな。あいつ。一体どんな顔をしてこんなの用意したんだか。
きっと、真面目な顔でなんて書こうか迷いながら筆をとったんだろう。そんな様子が簡単に頭に浮かんで微笑ましかった。
「ま、行ってやるか。七夕だし」
見上げれば、空には満天の星空。
月見亭から見える池にもきっと綺麗に映りこむだろう。
織姫と牽牛なんて柄じゃないけど、折角のあいつからの誘いだしと僕は上機嫌で晩飯に向かった。
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七夕企画、第二弾。成長庄団で七夕
庄左ヱ門は結構回りくどいこと好きだと思うよと言う話。
七夕のお願い(ちみ清団)
「せーはち、せーはちかたぐるま」
「あ、若旦那お願い事書けたんですか?」
「うん、だからたんざくにかざるんだ。せーはちかたぐるまして」
「え、危ないですから俺が飾っておきますよ」
「だめ。それじゃてっぺんにとどかないだろ。せーはちのぶんもかざるからかたぐるま」
「へぇ、わかりましたが暴れて落っこちないでくださいよ」
「へーきだよ。能にのっかるほうがむずかしいもん」
「それもそうですけどね。ところで若旦那。一体何てお願いをするんですか?」
「んー、ないしょ。いっちゃったらかなわなくなっちゃうだろ」
「いや、それはよい夢を見た場合のことだと思うんですが」
「それでもないしょ。いいからせーはち、かたぐるま!」
そう言って若旦那は頑なに教えてくれなかったので、気になってそっと短冊を見てみた。
「全く俺ぁ、果報者だなぁ」
それは、俺と同じ願いで。おれは思わず泣きそうになった。
『せーはちがずっとこのむらにいますように』
拙い字で懸命に書かれた短冊は、風でさらさら揺れていた。
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七夕企画第三弾。久しぶりのちみ清団
これ、うちの清八は若旦那に拾ってこられてますよってこと知らないと意味わからないんじゃ・・・。
いや、知っててもわからない気もしてきましたが(意味なんて大してないんで別にいいです)
曇りの七夕(六年)
「折角、色々用意したのになー」
「主に酒だけどな」
「まぁ、言いだしっぺが伊作だからな」
「いや。それと今日が曇りなのは全然関係ないから」
「雨じゃないだけ上出来だろう。伊作から切り出したのに」
「そうか?いっそ雨なら諦めもできるがこの中途半端さは伊作ならではと言う気がするぞ?」
「だから、いくら僕が不運委員だからって天気までは左右できないから!!」
「謙遜するな、保健委員」
「こんなの予想の範囲だろ。外出の5割がた通り雨の降る男」
「そうだよ、それでこそいさっくんだよ」
「・・・長次ー、留三郎ー。皆が酷い」
「いつものことだろ」
「・・・(無言で頭を撫でる)」
「うぅ、優しいのは長次だけだー」
「うっとうしいぞ、曇りの原因」
「まぁ、今年は残念だけど。また来年こうやって集まればいいよな!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「ん?何だよ皆長次みたいに黙るなよ」
「いや・・・来年もかよ?」
「何だよ、嫌なのかよもんじー」
「別に嫌とはいわねえけどよ。卒業してんだぞ?俺ら」
「いいじゃん、そりゃ今までほど頻繁に集まるのは無理かもしれないけど。一年に一回くらいはさ」
「・・・まぁ、いいんじゃないか?」
「いいね、じゃあ七夕の日は出来る限り毎年こうやって集まろうか」
「おいおい、織姫と彦星でもあるまいし。一年に一回とまで限定する必要はないだろ」
「いや、限定しておかないと先延ばしにしそうな馬鹿もいるからな。こへのいうとおりそちらの方がいいかもしれない」
「まてこら、誰が馬鹿だ。誰が」
「誰とは言っていないだろう。自覚があるんだな馬鹿」
「はいはい、喧嘩しないの二人とも」
「じゃ、決まりな!!」
「ったく、しょうがねえなぁ」
何時まで果たせるかはわからないが、それでもきっと忘れることはない約束を俺たちはした。
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七夕企画第四弾。「曇りの七夕」(六年生オール)
・・・だんだんと七夕関係なくなってきたな。
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