「ねえねえ、三木ヱ門君」 パタパタと忍者らしからぬ今にもすっころびそうな(とは言ってもこんなにも無いところですっころべるの何て小松田さんくらいのものだが)足音を立てながらタカ丸さんが走ってきた。 「三木ヱ門君の初恋が滝夜叉丸君だったって本当?」 唐突にそういわれるなり、三木は何も無いところでずっこけるという芸当をやって見せた。 四年生の日常 1、綾部と三木ヱ門とタカ丸の場合 器用に転んだ三木に僕が手を貸してあげると、三木は珍しく僕の手をとって立ち上がった。 細かく震えているし、怒っているんだろう。 まあ、とりあえず役得役得とそのまま手を握っていたら三木はいきなり怒鳴りだした。 「誰ですか!そんなこと言い出した奴はー!!」 わぁ。三木、顔真っ赤。かわいいなぁ。 ついさっきのタカ丸さんの発言がよっぽどきいたのか、三木は僕の手を振りほどくことも無く怒っている。 うん、役得役得。 「えー、ぼくの組の子たちに何で君たちが仲が悪いのか聞いたらそう教えてくれたよ」 「そんなこと言うのはあいつあたりだな!?くそっ、後で鉛玉お見舞いしてやる!!」 「で、そんなに怒り狂ってるってことは本当なんだ」 タカ丸さんの的確な指摘に、三木は言葉を詰まらせる。 僕にしてみたら適当にはぐらかしちゃえばいいのにと思わないでもなかったのだけど、三木はしばらく固まったままやがて観念したように小さく頷いた。 本当、素直で可愛いなぁ。 「といっても一年の頃の話ですよ?あいつ、女みたいな顔してたから・・・」 「うん、女の子と思って声をかけたら男の子で盛大な取っ組み合いをしたんだってね」 「・・・そこまでばれてるんですか?」 「うん、同じ組の子が詳細に教えてくれたからね。それで三木は今、滝夜叉丸君のことどうも思ってないの?」 「男相手なんだし当たり前でしょう!だいたい誰が好き好んであんないけ好かない奴!!」 「そっか・・・よかった」 三木が真っ赤になって否定をするとタカ丸さんは安心したようにそっとつぶやいた。 これは・・・もしかするとそういうことなのかな。 僕はそっと意味ありげな視線を送ってみた。するとタカ丸さんは目を逸らすことなく照れくさそうに微笑んで見せた。 ・・・この人なんだかんだといって忍者になる素質は十分かもしれない。 とりあえず僕はタカ丸さんから僕よりに三木を引き寄せた。 三木はきょとんとしたものの、漸く手が繋ぎっぱなしだと気づいて慌てて離した。残念。 四年生の日常 2、滝夜叉丸とタカ丸と三木ヱ門の場合 タカ丸さんの部屋に本を貸しに行ったら、何故か夜だというのに三木ヱ門の奴がタカ丸さんに髪を結ってもらっているところだった。 「あ、滝夜叉丸君いらっしゃい」 「げ、滝夜叉丸」 「夜分遅くにすみません、タカ丸さん。読みたいとおっしゃっていた本を持ってきました。そしてげ、とは何だ三木ヱ門。この私は部屋主であるタカ丸さんに頼みごとをされていたのだぞ、貴様に文句を言われる筋合いはない」 「なんだとこのやろ・・・」 「わー、ありがとう滝夜叉丸君。今晩早速読ませてもらうね」 うむ、こんなに素直に礼を言ってくれるとは本当に律儀な人だ。この謙虚な態度は見習うべきものだな。特に後ろの馬鹿とか、ろ組みの会計委員の馬鹿とか、石火矢馬鹿あたりが。 「ええ、面白い本ですので是非。この滝夜叉丸もうすでに読み終えてますので返すのはいつでも構いません。あと、五月蝿いぞ田村三木ヱ門。タカ丸さんの部屋で騒ぐとは迷惑な奴め。少しはタカ丸さんの謙虚さを学んではどうだ」 「その言葉そっくりそのまま返させてもらうぞ、滝夜叉丸。というか、もう用が終わったのなら部屋に帰ったらどうだ、暇人め」 「暇というならお前こそだ三木ヱ門。こんな夜もふけてタカ丸さんに髪を結っていただく意味が何処にある」 「や、それは俺が三木ヱ門君に髪結いの練習を頼んだからなんだけど」 「え、そうだったんですか!?というか私を差し置いて何故こいつに!?」 「いやー、三木ヱ門君って珍しい色合いの綺麗な髪をしてるからさー、結ってみたくて頼んだんだー。あ、もちろん滝夜叉丸君も綺麗な髪してると思うよ。黒くてさらさらだしね」 「と、言うわけだ。どうだこれで僕が正当な理由でここにい・・・」 「そうですか、おっしゃってくだされば私も協力しましたのに。なんならこの(三木ヱ門と書いて馬鹿と読む奴の髪を結った)後にでも」 「って聞けよコラ。そして今絶対()内で失礼なこと言っただろ!」 「え、いいの?やったー。滝夜叉丸君って手入れの行き届いた髪をしているから髪結いとしても結い甲斐があるんだよねー。でも迷惑じゃない?宿題とかあるでしょ?」 「タカ丸さんまで!?」 「いえいえ、この滝夜叉丸、優秀ゆえ宿題などとうの昔に済ませておりますからお構いなく」 「わぁ、そうなんだ。滝夜叉丸君はえらいねえ。俺、難しくてまだ全然終わってないよ」 「ならばお手伝いしましょうか?何、この滝夜叉丸にかかれば宿題などあっという間に片付けられます」 「・・・おい!」 「え、本当に?いいの?迷惑じゃない?」 「ちょっと」 「いえいえ、人の面倒を見るのは優秀なものの運命ですから。この滝夜叉丸喜んで力をお貸ししましょう」 「おいってば!」 「うわぁ、滝夜叉丸君が手伝ってくれるなら千人力だよ。有難う。実は忍たまの友を読んでもわからないところがかなりあって困って・・・」 「だから!人を無視して盛り上がるなー!!」 「何だ、いたのか三木ヱ門」 「最初からずっといるだろ!見えてるだろ!喧嘩売ってるのか滝夜叉丸!」 「五月蝿いぞ三木ヱ門。好戦的な奴だな。そんなもの貴様に売ったところで何になる。というか、気を利かせて部屋を出るくらいしたらどうだ。空気を読め。タカ丸さんの言葉を遮るな」 「他の誰に言われてもお前にだけは言われたくない台詞だ!タカ丸さんに髪をつかまれているのに出られるか!」 「なら、クナイで髪を切るなりなんなりすればいいだろう。何のために忍術を習ってるんだ」 「少なくとも髪結いさんに髪を結ってもらっている最中に逃げるためでないことは確かだ!」 「駄目だよ、クナイなんかで髪を切っちゃ。こんなに綺麗な髪なのにもったいない。ちゃんと綺麗にしてあげるから動かないで」 「だ、そうだ。タカ丸さんの手を煩わせないために動くなよ三木ヱ門」 「お前は数秒前の発言に責任を持て!何の恨みがあるんだ」 「気にするな、あえて言うならお前がタカ丸さんの部屋に入り浸ってるのが気に食わないのでからかい倒しているだけだ」 「いっそ清清しいまでに自分勝手な理由だな!い組はこんな奴ばっかりか!!」 などときゃんきゃん五月蝿い三木ヱ門で暇を潰していると、不意にタカ丸さんが口を開いた。 「あ、三木ヱ門君首のところ虫刺されしてるよ痒くない?」 確かに見ると項の辺りがほんのりと赤くなっている。 だが、三木ヱ門は何故か左鎖骨の辺りを押さえて言った。 「こっ、これは何でもないですから!!」 三木ヱ門、それは何かあったというのも同然だ。 そういえば昨日、喜八郎の奴が夜中に抜け出して帰ってこなかったことを思い出したが親切な私は言わないで置いてやった。 タカ丸さんは不思議そうな顔をしていたものの、しばらくたつと顔を赤くして「そうだよね、三木ヱ門にも色々あるよね」と照れくさそうに三木ヱ門の髪をまたいじり始めた。 (想像している相手と現実は違うということを)知らないということは幸せだなぁ、と思いながら私はタカ丸さんの手前そのことではからかわないでやることにした。 掲示板4年小話ログ。 2の方は大幅に変更・・・したら何か滝夜叉丸とタカ丸さんが無自覚のバカップルだ。 多分うちのサイトで一番のバカップルだ。爆笑。 そして綾部がいなくても三木がかわいそう。まぁ、いつものことだから別にいいか。(作者は三木ヱ門大好きです) 戻る
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