さて、友達が出来てひとりぼっちじゃなくなったばけもののその後の話だよ。
え?友達が出来てひとりぼっちじゃなくなったのだから戦いをやめたんじゃないかって?
うん、それで終われるなら良かったんだけどね。あいにくと、ばけものの望みとは裏腹に戦争はどんどん熾烈を極めてきちゃったんだ。





優しい化け物2





青年という新しい仲間が出来てからと言うもの、ばけものはより戦わなきゃいけなくなった。
何でかって?それは化け物達から人間を守りたくなってしまったからさ。
だからばけものは戦ったよ。
化け物たちから人間を守るために、その牙で化け物たちに食いかかり、その爪で化け物を切り裂いたのさ。ただ人間を守るために、青年と一緒にね。
だけどもちろん醜いその様をさげすむ人間もいたよ。守った人間に世界を滅ぼすもりだろうと罵られることもあった。
けれど、大切で大好きな人間達がいたからばけもの戦い続けたよ。
ばけものにとっては自分が大切に思う人々も自分を蔑む人々も、同じ「人間」だったからね、全ての人を守る理由なんてそれで充分だったのさ。
まぁ、ばけものが勝利するたび世界は滅びに向かっているのだから、それは滑稽なことだったけれどね。
でもばけものにはもう、目の前の人々が傷つくことを放っておくことなんて出来なくなってしまっていたからね。仕方ないさ。
それにね希望もあったんだよ。
ばけものはこの世界が好きになっていたから、人間の優しさも汚さも全部知った上で人間達を大切に思えるから。
ばけものが勝利者になっても人間を滅ぼさずにすむんじゃないかって考えてたんだよ。もしかしたら神様が人間にしてくれるんじゃないかってね。
もちろん頭じゃそんなわけないと分かっていた。それはばけものが神様から与えられた理から外れることだからね。
そんなの奇跡でも起こらない限り無理だってばけものにもわかってた。
だけどね、青年が信じてくれるから。
何の根拠もなかったけれど、青年はひたすらまっすぐに自分が世界を滅ぼしたくないことを信じ続けてくれるから。
それはばけものにとってとてもとても嬉しいことだったんだよ。
だからばけものは戦ったよ、化け物達に牙をむき、鋭い爪で化け物達を引き裂いて醜いその手を汚していったのさ。
どれだけ恐れられどれだけ蔑まれても、たった一握りの大切な人間達のために戦い続けたよ。青年と一緒に。奇跡だって起こると信じてね。
そしてやがてばけものは戦争の勝利者になった。
なのでばけものは人間になることを願ったよ。願いを叶えてくれるという神様にね。
強く、強く願ったんだよ。心からね。
でもね、神様はばけものの願いを聞いちゃくれなかった。
だってばけものの願いはばけものが神様から与えられた理とは全く違ったからね。
虚ろから生まれた何も持たず、何も必要とせずただ在るだけのばけものが何かをを望むなんて万能な神様にはありえないことだったから。
小麦粉なしでパンが作れないように、部品なしでバイクが走らないように無から有が生ずるなんておかしなことだから。
何もないはずの化け物に変化が訪れるなんて本来あってはならないことだからね。
万能な神様にはそんなイレギュラーはわからなかったのさ。
だからばけものが勝利者となったとき、最初の条件である「世界を滅ぼすこと」を実行し始めたよ。
全く良い迷惑だよね。ばけものはそんなこと全く願っちゃいなかったのに。
可哀相にばけものは最もなりたくなかった「この世界を滅ぼす存在」になってしまったのさ。
大好きなあの親子も、温かな手を持つ青年も自分がいるせいで滅ぼしてしまうと言う、なんとも可哀相な存在にね。
え?それでどうしたのかって?
そうだね、それはまた別のお話さ。











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